──『AK70』の後継モデルである『AK70 MKII』は新旧フラッグシップの技術と魅力を注いだエントリーを超えたプレミアムモデルとして、10月14日に発売されました。まず試聴しての印象をお聞かせください。
ハイエンド・オーディオで聴いた時の豊かさを思い出しました。音楽がそこに存在しているという意識をしっかりと感じ取ることができますし、何よりも音楽として聴こえる。音を鳴らすだけならどんなプレーヤーでもできますが、音楽としての魅力をできるだけありのままに伝えることができるプレーヤーとなると、なかなか出会うことができません。その意味で『AK70 MKII』は音楽そのものを聴かせてくれます。レコードを聴いているような自然な感じで、ぼくが聴き慣れている音に近い安心感がありますね。バランス再生で聴くのは初めてだったんですが、ソフトな音もラウドな音も安定感があって、出過ぎたり物足りなかったりもない。いつも聴いている感じよりもドラマチックな印象がしました。
──普段、ポータブルプレーヤーはお使いになっていますか?
ごめんなさい、あまり使っていません(笑)。音楽を入れるのが手間だと感じて、敬遠してしまっています。
──『AK70 MKII』をはじめ、Astell&KernのポータブルプレーヤーはWi-Fiを通じてネットワークに接続している状態であれば、直接ハイレゾ音楽データを購入できる「groover's」アプリを搭載しています。ですので、手軽に音楽をプレーヤーに入れることができるんですよ。また、日本でのサービスインはまだですが、音楽ストリーミングサービス「TIDAL」にも対応しています。
それは便利ですね! ようやくポータブルプレーヤーを使うきっかけになりそうです(笑)。再生時間はどれくらいなんですか?
──使用環境にもよりますが、ハイレゾ(FLAC/96kHz/24bit)を連続再生した場合は10時間くらいとなります。
それだけ再生できれば十分ですね。手にした時のホールディング感やサイズ感もちょうどいい。これより小さいと使いづらいし、大きいと邪魔になりますし。今も説明書を見ないで使えているほど操作もわかりやすくて、ユーザーフレドリー。ひと目見て、次はどこを操作すればいいかが直感的にわかりますね。反応もクイックですし、今まで使った中でベストなポータブルプレーヤーだと思います。
──まさに。AKシリーズのUIは世界的に評価されています。今回、ご自身の作品『ナッシュビル・セッションズ -スペシャル・エディション-』のほかに、スティーリー・ダンの『トゥー・アゲインスト・ネイチャー』、スティングの『テン・サマナーズ・テイルズ』、ピンク・フロイドの『炎~あなたがここにいてほしい』を選んで聴いてもらいましたが、いかがでしたか?
ぼくの作品に関しては、音に温かみがあってナチュラルに聴こえました。時々、こうしたすばらしい音質で聴くと弾いた際の自分の爪の音や、弦をひっかく音まで詳細に聴こえて気になってしまうんですよね。それだけ再現性があるということですばらしいんですけど、今回もちょっと気になりましたね(笑)。選んだ3枚に関しては、どれも音の存在感がはっきりとあって、中音域の響きがとてもナチュラルに感じました。高音域もよく出ていて伸びやかですが、明るくなりすぎていない。絶妙なバランスですね。特にスティングの音がすごく良かったです。中低音域の響きの美しさが印象的でした。本当に細かいところまで聴こえますが、聴こえ過ぎて邪魔になることもない。いつもこういう環境で聴けたらいいですね。
──今、日本では若い人たちの間でも、高音質のポータブルプレーヤーとイヤホンの組み合わせで聴く傾向が高まってきています。
圧縮音源で聴くことにみんな疲れたんじゃないでしょうか。圧縮音源でも聴くことはできますが、音楽に込められた感情やヴォーカルの表情、ベースやドラムの本来の鳴り、シンバルの細かな響き、音楽全体の空気感を感じ取ることは難しい。60、70年代のロックやクラシックですと、まさにそう。圧縮音源では失われてしまうことに気付いたんだと思います。ちなみにAstell&Kernのブランドポリシーとしては、ありのままの音を聴いてほしいのか、それとも音楽的に楽しく聴いてもらいたいのか、どちらなんですか?
──スタジオの音をそのままリスナーに届けたいというのがブランドポリシーです。
正直な音を伝えたいということですね。ぼくの願いと一緒です。レコーディングの際はその点を一番に気にしています。そのためには信頼できるプレーヤーが欠かせません。自分が工夫したミックスや音のバランス、楽器の編成、トラックごとの周波数の違いなどにも感じ取って気付いてもらえたら、これ以上のことはないですね。でも、スタジオで作業していると、この機材はローエンドが妙に出ちゃうんだよな、こっちだと高域が出しゃばるんだよなとか、そうした点を補う作業がどうしても必要になってくる。演奏した音をそのままを届けたいんですが、それはなかなか難しい。そこで例えばですけど、ジョン・メイヤーが新しい作品を制作するとします。どこかのスタジオに入ってエンジニアといつものように作るのではなく、Astell&Kernのようなオーディオブランドと一緒になって最上のプレーヤーに合わせた音を作ってみてはどうでしょうか。このプレーヤーで聴くと、ジョンが理想とした音質で聴けますというように。ギターのエンドース契約と同じように、そういうタイアップは今後ありだと思います。
──実はAstell&Kernは、グラミー賞のパーティ会場などに出展して、録音エンジニアの方々に聴いてもらうなどの施策も行ったこともあります。まさにそうした取り組みができるようになるとおもしろいですよね。
リスナーも新しい音楽体験ができますし、良い音で聴く必然性や重要性をわかってもらえるんじゃないでしょうか。まずは『AK70 MKII』を体感してもらいたいですね。
インタヴュー・文/油納将志 撮影:島田香 通訳:染谷和美
(アーティストプロフィール)
2002年7月にミニ・アルバム『サンデー・モーニング』でソロ・デビュー。2006年に日米でリリースされたアルバム『ジェントリー・ウィープス』は全米ワールドミュージック・チャートで最高位2位にランクイン。日本でもインストゥルメンタル作品としては異例の大ヒットとなり、同時にこの年の日本映画のありとあらゆる賞を総ナメにした『フラガール』の音楽も手がけて大きな話題を呼んだ。2016年には初の全曲オリジナル楽曲で構成されたアルバム『ナッシュビル・セッションズ』を発表。翌2017年9月に日本を含む未発表ライヴ音源やデモトラックを収録した2枚組の『ナッシュビル・セッションズ -スペシャル・エディション-』も発表した。