──今回、『AK70』を聴いていただきましたが、音はいかがでしたか?
- 曽我部:
- いつもはiPhoneで聴いていたんですが、『AK70』で聴いてみると音が普通にスタジオクオリティーだから、今までこんなに劣化した音で聴いていたんだなとあらためて認識しました。ただ、MP3に慣れちゃってるといえば慣れちゃってて、圧縮していない音って、こんなによかったんだ、そうだよな、と思って。新鮮でしたね。サニーデイの最新作『DANCE TO YOU』をまず聴いてみたんですけど、わりと、あ、こんなクセない、ナチュラルな音像だったんだなと感じました。PCとかiPhoneとかで聴くともっとざらついた感じの印象を受けるし、アナログだともうちょっと太いというか、それこそアナログっぽい音なんですけど。『AK70』で聴いて、こんなナチュラルに作ってたんだって思い出しました。
- 田中:
- うん、びっくりした。あれ、こんなにいい音だったっけって。ぼくはちょうど20年前に発表した4枚目の『サニーデイ・サービス』を聴いたんですが、ああ、レコーディングシているときはこういう音だったなって思い出しました。最新作もハイレゾで聴きましたが、やはりポータブルプレイヤーで、ここまでの音で聴けるんだって驚きましたね。音の輪郭がしっかりと感じられる解像感で。
──入力信号をできるだけロスせずに出力することを大切にしています。
- 田中:
- ベースの音もまんべんなくクリアに出ていますね。うん、ヘッドホンで聴くと自分たちの音楽が豪華に聴こえるな(笑)。
- 曽我部:
- ぼくはいつも聴いている自分たちの曲じゃない音楽を聴くのがいい。自分たちの音だと、粗さが目立っちゃって(笑)。いつも聴いてる音楽を聴くとすごい良かったな。
──スマートフォンと聴き比べされたそうですが、いかがでしたか?
- 曽我部:
- 『AK70』は音の粒子がきめ細かいですね。サ行の音もつぶれないですし。フランク・オーシャンのアルバムを聴いてみたんですけど、普通のヘッドホンやイヤホンだとちょっとサ行が気になる曲とかあったんですけど、『AK70』だとイヤホンとの組み合わせが良かったんでしょうね、気にならなかったです。アナログの音に近いというか、アナログの考え方に近いんでしょうね。本来鳴っている音をできるだけ再現したいっていうところが、テーマだと思うので。
──まさに作品本来の音を色付けなく、限りなくそのまま楽しめることが『AK70』の思想なんです。
- 田中:
- うん、それは聴いていて伝わってきましたね。
- 曽我部:
- できあがった音をあらゆる再生機器でチェックするんですが、それこそスマホからラジカセまで、『AK70』は本来の音のチェックに使えますね。これから使わせてもらおうと思います。
──ハイレゾの確認などはまさに打ってつけだと思います。『DANCE TO YOU』のハイレゾは48kHz/24bitでリリースされていますね。
- 曽我部:
- はい。MP3、CD、レコード、ハイレゾと4つのパターンでマスタリングしました。それぞれに聴く人の耳に合わせて作っています。ハイレゾは音圧あると嫌われるので、ダイナミックレンジを残しつつ、うまくまとめるようにしました。
──96kHz/24bitが主流ですが、あえて48kHz/24bitにしたのは?
- 曽我部:
- 96でもやってみて聴き比べてみたんですが、48の方が好みというか。96の方が、きらびやかになりすぎちゃうっていうか、よく言うとすごくきれいにはなるんだけど、ちょっとデジタルっぽいなっていうのを感じて。
──今回サニーデイとしては初めてのハイレゾでしたが、曽我部さんはソロとして以前からハイレゾやDSDでリリースされていますね。
- 曽我部:
- DSDは話があった時に試してみたって感じで、基本的にはいまだに48で録っていますね。弾き語りとかだと96もいいなと思うんですけど、バンドだと重くなるというのもひとつあって、48でずっとやってます。需要があるので、やってるっていう感じで。自分としてはどっちかっていうとアナログ・レコードの方が、メインに考えちゃってるところがあるんですけど。でも、イエスのアルバムをハイレゾでいちど聴いたんですけど、スタジオのコンソールの前はこんな感覚なんだろうなっていう体験をしました。その音をレコードにプレスして我々は聴いてたんだけど、そのプレス前の段階のメンバーがスタジオで聴いていた音を体感することができるようになった。こんなにいい音に作ってたんだってビックリしましたね。
──それはおふたりがスタジオのコンソールの前で聴いているのとすごく似ているからそう感じるのでしょうか。
- 曽我部:
- そうそう、似てますね。ダウンコンバートまったくされてないような感覚が同じです。
──スタジオでの音と、CDで聴く音とは違うなという感覚はあるわけですね。
- 曽我部:
- ハイレゾが出てくるまでは、少なからずありましたね。でも、それは慣れちゃったかな、という感じで。ミックスダウンした時にこのあたりの音はCDにプレスされたら消えてしまうな、というのをある程度想定しながら作っています。
──ハイレゾが出てきて、その欠落部分も表現できるようになりました。ここ最近のレコーディングの進め方や、意識の違いというのはありますか?
- 曽我部:
- 自分たちが好きないい音で作るっていうのが大前提なので、あんまりハイレゾが出ようが何しようが変わらないんですよね。ただ聴く人の環境がかなり広がってしまったっていうのはある。だからマスタリングも何通りもやらないといけなかったり。YouTubeのみで音楽聴く人もいっぱいいますので。ここ数年はあらゆるリスナー、聴く環境を考えながらやってます。90年代はCDだけでしたが。なので、CD用のマスタリング音源でアナログをプレスしてもらっていました。でも今はアナログ好きな人とCD好きな人がまったく違う。アナログはアナログ用に6ミリのテープにまずミックスダウンした音源を落としてそのまま工場に持っていくんです。そうすると、48でも44.1kHz/16bitでもない、Maxでミックスした音がMaxでカッティングできる。アナログを好きな人は90年代よりもアナログの理解が進んでるし、だからぼくらも対応する。ぼくらもそういう耳になってきてますし。むしろ、逆に言うとハイレゾに対応はあんまりできていないので、これからですね。
インタヴュー・文/油納将志 撮影:石田昌隆
(プロフィール)
サニーデイ・サービス
曽我部恵一(Vo.Gt)・田中貴(Ba)・丸山晴茂(Dr)による3人組ロックバンド。1994年メジャーデビュー。1995年に1stアルバム『若者たち』をリリース。以来、「街」という地平を舞台に、そこに佇む恋人たちや若者たちの物語を透明なメロディで鮮やかに描きだし、その唯一無二の存在感で多くのリスナーを魅了し続けている。2016年8月に通算10枚目のオリジナルアルバム『DANCE TO YOU』をリリース。最新作は2017年3月15日発売のNEW EP『桜 super love』。2017年8月27日に、19年ぶりの日比谷野外大音楽堂でのワンマンLIVE <サニーデイ・サービス サマーライブ 2017>の開催が決定。
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